悠久フィロソフィー

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D.D.外伝第九話

第九話 罠と予兆
 
 
 発動されたカードは破壊輪。
 今や禁止カードに指定されているほどの、凶悪な罠。
「――ッ」
 竜也のライフは残り3950ポイント。
 破壊輪がその効果を発動すると、残るライフポイントは――わずかに1150のみ。
 
 フェルグラントドラゴンの首に、がちりとはめ込まれる兵器。
 爆弾を大量に付随させた機器。
 それは――あまりにも、劣悪で。
 
「さあ、これでカタをつけてやる!」
 
 瀬木がそう叫んだ直後、破壊輪が爆発した。
 
 爆風が場を蹂躙する。
 爆音が場を圧倒する。
 フェルグラントドラゴンの巨体が、崩れ落ちて――
 
 やがて硝煙が晴れてくる。
 その先に、竜の姿は跡形も残っていなかった。
 
「ははは、どうだ! フェルグラントドラゴン、撃――」
 
 
「馬鹿。よく見ろ」
 
 
 冷静な竜也の声。
 冷徹なその響き。
 
「は?」
「俺のライフをよく見ろって言ってんだよ」
 
 ライフ?
 わずか1150しか残っていないはずのライフポイントを?
 瀬木は疑念を抱きながら、カウンターについているライフ表示を見た。
 
 
 竜也LP:6750
「あれ?」
 
 増えている。
 破壊輪によって致命傷に近いダメージを負ったはずのライフが。
 増えている。
「まさかっ!」
 即座に瀬木は自分のライフポイントも確認した。
 
 瀬木LP:8000
 
 やはり、ダメージを受けていない。
「……」
 
「ああ、そのまさかだ」
 
 竜也が墓地の一番上のカードをつまんで、瀬木に見せた。
 それは、速攻魔法カード。
 
「手札から神秘の中華なべを発動させてもらった」
 
 と、空中から何かの影が降りてくる。
 それを見上げた時、落ちてきたのは、巨大な中華なべだった。
 ぐわあん、と響いて、すぐに消える。
 
「なるほど、サクリファイスエスケープ、か」
「そういうことだ」
 
 フェルグラントドラゴンが生け贄に捧げられていたことにより、破壊輪は不発。
 どうにか――最悪の事態は回避し、さらにライフ回復もしてみせた。
 順調そうに見えた竜也だったが、しかし。
 
「でも、もう場にモンスターはいない」
 
 瀬木の指摘の通り。
 唯一場に出ていたフェルグラントドラゴンを失い、竜也の場には壁がない。
「いや。まだこのターン、俺はモンスターを召喚していない」
 冷ややかに言って、カードを1枚伏せた。
 
「俺はモンスターを1体セットしてターンエンド」
「おれのターン」
 
 伏せモンスター。
「メタモルとか……仮面竜もまだ残ってたか。あれは何だろうね」
「……」
「まあ、何でもいいか」
 その言葉と同時に、伏せられていたモンスターが姿を現した。
 
「Z―メタル・キャタピラーを反転召喚!」
 
 竜也の読みは、一応、外れてはいなかった。
 ユニオンモンスター。
 だが、まだ終わらなかった。
 
「さらに、X―ヘッド・キャノンを攻撃表示!」
 
 さらなるユニオンモンスターの召喚。
 2体の機械が、伏せモンスター越しに竜也を照準に合わせる。
 
「バトルフェイズ! ヘッド・キャノンで伏せモンスターを攻撃!」
 
 双肩の砲門が煌めき、太いレーザーが発射された。
 その攻撃を受けて、身を隠していた守備モンスターがあらわになる。
 
 砲撃を受けたのは、一体の霊だった。
 
「魂を削る死霊か!」
「ああ。死霊の存在を、戦闘で消すことはできない――」
 
 何事もなかったかのようにフワフワと宙に浮く死霊。
 小さい体でありながら、その耐久性能は相当のものである。
 
「ち、それじゃキャタピラーで攻撃しても無駄か」
「どうする?」
「いいさ。メインフェイズ2で、X・Zの合体!」
 
 電磁波が迸り、プログラム機構が作動して、2つの機会モンスターが合体する。
 巨大砲門と無限軌道を備えた、ユニオンモンスターの誕生。
「乗っかっただけじゃねえか」
「そこ! うるさい!」
「ってか融合しねーのかよ」
「だって融合デッキにないもん」
 そういえば未収録だったな、と変に納得してしまう竜也。
 
「それで、お前のターンは終わりか?」
「ああ、終了」
 
 伏せカードも、魔法の発動もなくターンを終える瀬木。
 竜也は反撃の契機を待ちながら、カードを引く。
 
「俺のターン、ドロー」
 
 引いたカードは――即効性のあるものではなかった。
 場が膠着しかけている今、手札には新しいカードが要る。
 
「ゴブリンのやりくり上手を発動」
 
 仕方なく、このタイミングで伏せカードを開く。
 
「1枚引き、1枚をデッキの底に置く」
「ああ、あったねえ、そんなのも」
 
だが――すぐに使えるカードは来ない。
モンスターを出しても、すぐにあの合体モンスターに破壊されてしまう。
 
「1枚伏せる。ターンエンドだ」
「おれのターン、ドロー」
 
 ドローカードを見て、瀬木が少し残念そうな顔をした。
 苦笑しながら、カードをプレイする。
 
「手札から儀式魔法、白竜降臨を発動する。マンジュ・ゴッドを生け贄に捧げて、手札の白竜の聖騎士を儀式召喚!」
 
 マンジュ・ゴッドの姿が昇華し、入れ替わりに上方から竜騎士が舞い降りる。
 白い輝きに満ちた、竜を駆る戦士の姿。
 
「こいつをもう1ターン早く引いてれば、死霊は破壊できたのに」
「さっきのターン攻撃したお前が悪い」
「ちぇ、まあいいや。だったらこうしてやるよ」
 
 現れたばかりの竜騎士が――消えた。
 
「白竜の聖騎士、効果発動! その身を生け贄に捧げ、手札からこいつを特殊召喚する!」
 
 風。
 フィールド上を中心にして、暴風が湧き上がる。
 気圧される、すべての感覚。
 圧倒される、あらゆる部位。
 それは――予兆だった。
 前触れだった。
 それが、やって来る。
 その龍が、やって来る。
 
「な、何ですか……! これまでと何か違う――」
「……」
 何も知らない傍観者二人にさえ、その感覚は伝わっていた。
 
 天空を裂く、その風圧。
 場に存在するすべてが、萎縮してしまいそうな、貫禄。
 爆殺的なまでの存在感。
 何もかもが比較にならない。
 何もかも足元にも及ばない。
 
 
「出て来い! ブルーアイズ!」
 
 
 すべてを湛えて、青眼の白龍は、舞い降りた。