悠久フィロソフィー

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D.D.外伝第二十六話

第二十六話 焔と合体
 
 
「?」
 沙耶は首をかしげた。
 何が起きるかと予測もつかずにいた彼女の目に飛び込んできたのは、何とも奇妙なモンスターだった。
「何、あれ……」
「バカだな」
「バカだ」
 横で、竜也と瀬木が呆れていた。
 そしてそのさらに横で、
「あ、かわいい」
 などと言っているルシナがいた。
 
 
 コイツ。
 レベル10にして攻撃力100ポイント。
 
 
「何よ」またも沙耶の声。
「ちょっとー! 恐竜ちゃんはどこ行ったのよ!」
「あー悪ぃ。今倒しちまったわ」頭を掻きながら英仁が答えた。
「ぁんですって!?」
 今にも殴りこもうとせんばかりの彼女を、引き続きルシナが取り押さえる。
「ダメですって……」
 
 
「ちっ――俺のブラック・ティラノを……!」
「伏せカードをロクに警戒もせず攻撃するからだってんだよ」
「クソ黙りやがれ。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」
 フィールドにカードが1枚出現し、ターン権が英仁に移る。
 伏せカード。
「俺のターン。ドロー!」
 

 さて、と英仁は思う。
 素直に攻めるとするか。
 
 
「俺は手札から魔法カード、古のルールを発動!」
「古のルールだと?」
「これで手札に存在するレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する!」
 答矢に嫌な予感が走った。
 まさか。
「まさか」
「俺が特殊召喚するのは――アイツだ!」
 
 
 ちょん。
 と出現したのは、紙飛行機に乗った、真っ赤な小男。
 
 アイツ。
 
 コイツの横に降り立って、ちょこちょこと二人並ぶ。
 
 
「マジか」
 呆然とする答矢をよそに瀬木と竜也が深く溜息をつく。
「あ、あの、木本君」暴れそうな沙耶を止めながらルシナが聞いた。「あれ、何なんですか?」
「雑魚モンスターだ」
「はあ」
「ただし」
 竜也の目つきが一瞬真剣なそれになるのをルシナは見逃さなかった。
「今はかなり強力なモンスターだ」
 
 
「行くぜえ! コイツをアイツにユニオン装備!」
 二人が歩み寄る。
 歩み寄って――
 
 
『ガッシーン!』
 
 
 合体した。
 
 
「ふふはははは! コイツを装備したアイツの攻撃力は3000ポイントアップする!」
 英仁が高らかに叫んで、答矢を指差した。
「バトルフェイズだ! 攻撃力3100のアイツでプレイヤーにダイレクトアタック!」
 
 
「あがあああああ!」
 
 
 断末魔。
 答矢のライフポイントが削られる。
 
 
 答矢LP:4500
 
 
「あれ?」ルシナが呟いた。
「すいません、あの、私今ちょっと見逃しちゃったんですけど何があったんです?」
「…………」
「…………」
「あのー、あのモンスター、どんな攻撃を」
 瀬木も竜也も黙っていた。沙耶は相変わらず半狂乱だった。
 
 
「ぐっ…………」
「まだだ! カオスエンドマスターで追撃!」
 
 
 カオスエンドマスターが飛翔した。
 高速の拳が、答矢の体にヒットする。
「がっ――!」
 
 
 答矢LP:3000
 
 
 答矢のライフポイントが半分を下回った。
「畜生、調子乗ってんじゃねえぞテメェ……!」
「は、別に調子に乗ってなんざぁいねーよ」
 英仁は笑う。高らかに、雄雄しく。
「俺は」
 
 負けられないだけだ。
 友人を蹴落として賭けに参加したのだから。
 勝つしかない。
 
 
 
 ある提唱。
【勝敗で優劣を決する】という――
 
 
 
 勝つしかない。
 
「俺は勝つぞ! お前に!」
 そう言って答矢を睨む。
「ターンエン――」
 
 
「そういう態度がよ」
 
 
 答矢は静かにカードをめくる。
「調子乗ってるっつってんだよ!」
 
 
 不意に。
 場に、2体の影が出現した。
 
 
「――あ?」
 黒い炎のような、それは人型を模したような、そんな影。
 
 
「終焉の焔か!」瀬木が叫んだ。
「道理で攻撃宣言時に使わないはずだ……コイツを装備したアイツは貫通を備え、カオスエンドマスターに戦闘破壊させるわけにはいかないからな」
「あ、あのう」
 ようやく収まってきた沙耶の腕を握りながらルシナが今度こそ尋ねる。
「ん?」
「あれ、何かまずいことでもあるんですか?」
 
 終焉の焔。
 2体のトークンを生成する、速攻魔法。
 
「まずいな」竜也が答えるように応じた。
「上級モンスター召喚を狙っている」
 
 
「俺のターン」答矢がカードを引いた。「ドロー!」
 今、答矢の手札枚数は4枚。
 対する英仁の手札枚数は――
「2枚、だ」
「…………」
「息切れしないようにせいぜい気をつけな」
 
 
 何だ?
 何を狙っている?
 英仁が勘繰っていた中で、2つのトークンが姿を消した。
「何!?」
 
 
「俺は2体の黒焔トークンを生け贄に捧げる!」
 
 
 またも、2体の生け贄による召喚。
 現われる上級モンスター。
 
 
「出てきやがれ! デモニック・モーター・Ωを攻撃表示で召喚!」
 
 
 どばずんと重々しい効果音を伴ってフィールドに出現したのは、巨大な機械だった。
 ところどころから噴煙を吐き、刃物を各所に備えた暴走するマシン。
 悪魔的なエンジン。
 デモニック・モーター!
 
「なっ」
 英仁は少したじろいだ。
 いくら自分の場に攻撃力3100のアイツがいるからとはいえ――
 
 
 デモニック・モーター・Ω、攻撃力、2800!
 
 
「さらに冥界の宝札により俺は2枚ドローする」
「くっ……」
 新たに手札に加えたカード。
「はん」
答矢はそれを見渡して、そして吠える。
 
 
「バトルフェイズ! デモニック・モーター、カオスエンドマスターを抹殺しろ!」
 
 
 攻撃は一瞬だった。
 巨体に似合わない高速で移動した暴走機械は、刹那に戦士を八つ裂きに薙いだ。
 
 
 英仁LP:6700
 
 
「ち……この!」
 
「さらに」答矢は、手札からカードをそっと抜き出した。
「俺はカードを2枚伏せておく……」
 リバースカード。
 それも、2枚の。
「エンドフェイズ!」
 そして彼のターンはまだ終わってはいない。
 
「デモニック・モーター・Ωの効果によりモーター・トークンを攻撃表示で特殊召喚させる」
 
 モーターが生み落とす小さな部品。
 攻撃力わずか200ポイントの、弱小なトークン。
 
 
「さあ、お前のターンだ」
 答矢の表情は、一変して不気味なほどに高揚していた。
 
 
 ド畜生め。
 調子乗ってるのはお前のほうじゃねえか。
 
 英仁は心の中でそう毒づいて、デッキに手を伸ばす。